
2026年6月、SpaceXがIPOした。
宇宙、AI、通信、防衛、イーロン・マスク。
これだけ夢のあるキーワードが並ぶと、投資家としてはどうしても期待してしまう。
「今買えば、将来とんでもない利益になるのでは?」
「NVIDIAやキオクシアのような爆上げ銘柄になるのでは?」
そんな期待を持つ人も多いと思う。私もそのうちの一人である。
たしかにSpaceXは、非常に魅力的な会社だ。
ロケットを飛ばすだけでなく、Starlinkという衛星インターネット事業を持ち、宇宙通信インフラ、防衛、政府契約、将来的にはAIや宇宙データセンターのような巨大テーマにも関わる可能性がある。
ただし、投資で大事なのは「良い会社かどうか」だけではない。
もっと重要なのは、その良さが、すでに株価にどれだけ織り込まれているかである。今回分析してみて改めてそう感じた。
結論から言うと、SpaceXは将来的にさらに大きな企業になる可能性は十分ある。
しかし、NVIDIAのように何千倍にもなる爆上げ銘柄になる可能性は、構造的にかなり低い。
理由はシンプルに上場時点ですでに大きすぎるからだ。
SpaceXは何の会社なのか?
多くの人はSpaceXと聞くと、ロケット会社をイメージすると思う。
もちろん間違いではない。SpaceXはロケットを使って、NASAや民間企業、政府向けに衛星や物資を宇宙へ運んでいる。
しかし、今のSpaceXを単なるロケット会社として見ると、本質を見誤る。
現在のSpaceXは、むしろ宇宙インフラ会社と見る方が近い。
特に重要なのがStarlinkだ。Starlinkは、地球の低軌道上に多数の人工衛星を配置し、世界中にインターネット接続を提供する衛星通信サービスである。
山間部、離島、船舶、航空機、災害地域、軍事・防衛用途など、従来の通信インフラが届きにくい場所にもインターネットを届けられる。しかも通信サービスなので、利用者が増えれば毎月収益が入る。
つまり、ロケットのような単発の打ち上げ収入だけでなく、継続課金型のインフラビジネスを持っている。ここがSpaceXの強さだ。
NVIDIAが単なる半導体メーカーではなく、AI時代のインフラ企業として評価されたように、SpaceXも単なるロケット会社ではなく、宇宙・通信・防衛・AI時代のインフラ企業として評価され始めている。
だからこそ「SpaceXは次の爆上げ銘柄なのではないか?」という期待が生まれる。そこで今回爆上げ銘柄で有名なNVIDIAと比較して分析してみた。
NVIDIAはなぜ爆上げしたのか?
NVIDIAは1999年1月22日に1株12ドルで上場した。これはNVIDIA公式IRにも記載されている。
その後、NVIDIAは複数回の株式分割を行っている。累計では、IPO時の1株が現在の480株になる計算だ。つまり、現在の株式数ベースに直すと、IPO価格12ドルは実質的に、
12ドル ÷ 480 = 0.025ドル
となる。
その後、NVIDIAはゲーム用GPU、データセンター、AI、生成AIという巨大テーマを取り込み、株価は大きく上昇した。まさに歴史的な爆上げ銘柄だ。
ただ、ここで大事なのは、NVIDIAが最初から「AIインフラの本命」と見られていたわけではないことだ。
上場当時は、ゲーム用GPUやPC向け半導体の会社という見方が強かった。そこから市場の見方が何度も変わった。
「GPUはゲームだけではない」
「データセンターに使える」
「AI学習に不可欠だ」
「生成AI時代のインフラ企業だ」
このように、会社に対する評価の前提が何段階も切り上がった。だから株価も爆発的に上がった。株価が何十倍、何百倍になるときは、単に売上や利益が伸びるだけでは足りない。市場の見方そのものが変わる必要がある。ここが重要だ。
SpaceXは上場時点ですでに巨大すぎる
では、SpaceXはどうか。
SpaceXはIPO価格135ドルで、評価額は約1.77兆ドル規模だったと報じられている。結果的に555.56百万株を売り出し、750億ドルを調達する大型IPOだった。
さらに上場初日の取引では、SpaceXの時価総額が2兆ドルを超えたとも報じられている。これはとんでもない規模だ。
NVIDIAがIPOしたときは、まだ将来AIインフラの中心企業になるとは多くの人に見られていなかった。一方、SpaceXは違う。
SpaceXは上場時点からすでに、
「宇宙インフラの本命」
「Starlinkという通信インフラ企業」
「防衛・政府契約に強い企業」
「AI時代にも絡む可能性がある企業」
「イーロン・マスク銘柄」
「次のNVIDIA候補」
として見られている。
つまり、最初から期待値がかなり高い状態で市場に出てきた会社なのである。これは投資としては大きな違いだ。
仮にSpaceXがNVIDIAのように数千倍になるとしたら、1.77兆ドルの時価総額が数千倍になる必要がある。
そうなると、SpaceXだけで世界経済全体を大きく上回るような、現実離れした企業価値になってしまう。
だから、SpaceXが良い会社かどうかと、NVIDIAのような倍率で上がるかどうかはまったく別問題だ。
SpaceXは「次のNVIDIA級の企業」にはなれるかもしれない。しかし、「NVIDIA級の倍率」を期待するのはかなり難しい。この違いを混同してはいけない。
キオクシアは小さな会社だったのか?
では、最近の日本株で爆上げ銘柄として話題になったキオクシアはどうだろうか。
キオクシアも上場後に大きく注目された半導体関連銘柄だ。
AI需要、データセンター需要、メモリー市況の改善などを背景に、株価が大きく上がった局面がある。では、キオクシアはNVIDIAのように「最初は小さな企業」だったのか。答えは、そうではない。
キオクシアは2024年12月にIPOし、公開価格は1,455円。IPO時の時価総額は約7,840億円だった。つまり、キオクシアは上場時点ですでに大きな会社だった。ただし、SpaceXとは決定的に違う点がある。
キオクシアは、上場時点で市場から熱狂的に評価されていたわけではない。むしろ、半導体市況への不安、メモリー事業の景気敏感性、過去の上場延期などもあり、投資家の見方は慎重だった。
公開価格に対して初値が弱かったことからも、上場時点では「期待され尽くした人気企業」というより、「本当に大丈夫なのか?」と疑われていた企業に近い。つまり、キオクシアが面白いのは、小さい会社だったからではない。
大きな会社だったが、過小評価されていた可能性があったという点である。その後、AIデータセンター需要によって、
「思ったより稼げる会社ではないか」
「AI時代にメモリー需要はさらに伸びるのではないか」
という見直しが入った。
株価が上がるには、業績の成長だけではなく、市場の見方が変わることが重要だ。この意味で、キオクシアはSpaceXとは少し違う。
SpaceXは「すごい会社」と多くの人が思った状態で高い評価をつけて上場した。キオクシアは「本当に大丈夫?」と疑われた状態から見直された。ここに株価上昇余地の違いがある。
爆上げ銘柄に必要なのは「良い会社」ではない
ここが一番大事だ。
多くの人は、投資で大きく儲けるには「良い会社」を買えばいいと思いがちだ。しかし、実際にはそれだけでは足りない。爆上げする株に必要なのは、良い会社であることに加えて、その良さがまだ十分に知られていないことである。いわゆる掘り出し物である。
NVIDIAは、上場時点ではAIインフラ企業として評価されていなかった。キオクシアは、大企業ではあったが、上場時点では期待より不安の方が大きかった。つまり、どちらにも共通しているのは、市場の評価が後から大きく変わったという点である。
株価が何倍にもなるとき、単に売上や利益が伸びるだけではなく、投資家の見方そのものが変わる。
「思っていたより市場が大きかった」
「ただの部品メーカーではなく、時代のインフラ企業だった」
「不人気企業だと思っていたら、実は強い収益力を持っていた」
こうした再評価が起きるから、株価は大きく上がる。
一方、SpaceXは上場時点ですでに多くの投資家から高く評価されている。Starlinkの将来性も、宇宙インフラとしての可能性も、防衛・政府契約の強さも、イーロン・マスクへの期待も、かなり織り込まれている。
もちろん、SpaceXがここから2倍、3倍、場合によっては5倍になる可能性はあるかもしれない。しかし、NVIDIAのように数百倍、数千倍という倍率を期待するのは、時価総額の構造上かなり厳しい。
OpenAIやAnthropicも同じ構造になる可能性が高い
この話は、今後IPOする可能性があるOpenAIやAnthropicにも当てはまる。OpenAIはチャットGPTの企業でAnthropicはクロードコードの企業である。
OpenAIやAnthropicは、将来性だけで見れば非常に魅力的な会社だ。生成AIはすでに仕事、検索、プログラミング、教育、カスタマーサポートなど、さまざまな分野に入り始めている。しかし、問題はその期待がすでに多くの人に知られていることだ。
調べていくとOpenAIが最大1兆ドル評価でのIPOを検討していると報じている。もしOpenAIやAnthropicが1兆ドル近い評価額で上場するなら、それは「誰にも見つかっていない成長株」ではない。
世界中の投資家が将来性を認めたうえで、かなり高い値段がついた企業である。これはSpaceXと同じ構造だ。会社としては素晴らしい。将来性もある。でも、上場時点ですでに高い期待が価格に入っている。
その場合、株価がさらに大きく上がるには、現在の期待をさらに上回る結果を出す必要がある。投資で難しいのはここだ。良い会社を買うだけでは足りない。良い会社を、良い価格で買わなければならない。
SpaceXから学ぶべきこと
SpaceXはすごい会社だ。
Starlinkは世界中に通信インフラを広げ、ロケット事業は宇宙輸送のコストを下げ、防衛・政府向けビジネスも広がっている。将来的には、宇宙通信、AI、データセンター、防衛インフラなど、さまざまな巨大テーマの中心に立つ可能性もある。だから、SpaceXに将来性がないわけではない。むしろ将来性は抜群にある。ただし、その将来性はすでに多くの人が知っている。ここが問題だ。
株価が爆上げするには、会社が成長するだけでは足りない。
市場の期待を超えて成長しなければならない。
そして、時価総額がすでに巨大であればあるほど、そこから何倍にもなるハードルは高くなる。NVIDIAは、まだAIインフラ企業として見られていなかった時代に上場した。
キオクシアは、半導体企業でありながら上場時点では慎重に見られていた。どちらも共通しているのは、後から市場の見方が変わったことだ。
一方、SpaceXは違う。
上場時点ですでに、多くの投資家から「宇宙インフラの本命」として見られている。つまり、期待されていない会社ではなく、期待された状態で市場に出てきた会社である。
今回SpaceXやNVIDIAを分析しながらから感じたことはすごい会社と、爆上げする会社は違うということだ。
SpaceXはすごい会社だ。
しかし、すごい会社だからといって、必ずしも爆上げ銘柄になるわけではない。投資で見るべきなのは、夢の大きさだけではない。
その夢が、今の価格にどれだけ織り込まれているかである。
本当に大きなリターンを狙うなら、探すべきはSpaceXのような有名企業ではない。まだ多くの人が見向きもしていない、時価総額の小さな企業。
もしくは、キオクシアのように、すでに大きくても市場から過小評価されている企業。もちろん、そこにはリスクもある。小さい会社は倒産リスクが高い。不人気企業は、不人気な理由が本当にあるかもしれない。過小評価に見えて、単に実力通りの評価である可能性もある。それでも、何十倍、何百倍というリターンは、安心感のある有名企業からは生まれにくい。大きなリターンは、多くの場合、まだ多くの人が気づいていない価値を、他の人より早く見つけたときに生まれる。
SpaceXのIPOから学ぶべきことは、SpaceXを買うかどうかだけではない。投資で本当に見るべきなのは、良い会社かどうかではなく、良い会社が良い価格で買えるかどうかである。
最後に投資でよく例え話で出てくる話を紹介する。
ゴールドラッシュで儲けたのは実際に金を掘り当てた人だけでなく、金を掘るためにツルハシを与えた人や採掘作業で使う丈夫なジーンズを提供したリーバイスも含まれる。昨今のAIブームをゴールドラッシュと見るならば、今回の教訓(過小評価されたいい企業)を狙う領域はAI企業だけでなく、OpenAIやAnthropicにツルハシやジーンズを提供している企業も含むべきである。その代表格が半導体企業だが、その半導体企業にツルハシとジーンズを提供する企業にも目を向けると結構広範囲でかなり意外な企業だったりする。例えば化学調味料で有名な味の素である。この辺の話はまた別の記事にします
