
最近記録的な大雨が多く、ニュースで車が沈んでいる映像をよく見るようになった。実際に被害に遭われた方々はその後愛車をどうすればいいかと悩んでいるだろうし、近くに住んでる方や河川の近くに住んでいる方は明日は我が身と怯えているかもしれない。そんな方々のための記事になればと、今回徹底的に調べて対策マニュアルを作成してみました
実際、全国でどれくらいの車が冠水しているのか
最初に知っておきたいのは、実は「日本全国で毎年○万台が冠水した」という完全な統計はほとんどないことだ。
警察、自治体、JAF、保険会社などがそれぞれデータを持っているため、「冠水車」という括りですべてを合算した数字は把握しにくい。
そこで規模感を知る材料になるのが、豪雨災害後の車両保険の支払台数・件数だ。
2019年の台風19号ではさらに多く、車両保険の支払件数は47,378件、支払保険金は約606億円。
2020年7月豪雨でも、車両保険の支払件数は10,376件、約135億円に達している。
もちろん、これらすべてが「冠水」だけによる事故ではない。飛来物など別の被害も含まれるし、保険に入っていない冠水車は数字に現れない。
それでも、一度の大規模豪雨で万単位の自動車保険事故が発生することは分かる。
そして2026年は過去の件数を上回る可能性が高いことも容易に想像できる
冠水しないためにできること
冠水対策で最も効果が高いのは、当然だが「水に入らないこと」であり、事前に天気予報で大雨を予測できるのなら車を高台に移動しておいたり、冠水路を避けるルートを想定しておけるといい
特に危ないのがアンダーパス、川沿い、線路下、地下駐車場、周囲より低い道路だ。
とはいえ、想定外のゲリラ豪雨や冠水する前に車を移動するなどを考えると、どうしても深い水溜りを走行せざる得ない状況はあると思うので一応目安をお伝えしておくと
国土交通省は浸水深30cm以上で車の走行が困難になり、50cm以上では車が浮いたり、車内に閉じ込められたりする危険があるとしている。
また、JAFが2024年に行った実験では、水深30cmを10km/hで走ったBEV・HV・ガソリン車はいずれも走り切れたが、同じ30cmでも30km/hになると、ボンネット内部への浸水やアンダーカバー脱落、ガソリン車では車内への浸水まで起きた。
さらに水深60cmでは、40km/hで進入したガソリン車が28.5m地点で停止。HVも走行後にエンジンが停止している。
ここから分かるのは、冠水路では「水深」だけでなく「速度」も影響するということだ。
実際に冠水路を目の前にすると「勢いをつけて一気に抜けた方がいい」と感じる人もいると思うが、それは逆効果でなるべくゆっくり走った方がいいというのは覚えておきたい。
それでも冠水してしまったら
車を守る前に自分の命を優先してほしい。そのために水位が低く電気系統が機能しているうちにまず窓を開け脱出路を確保した方がいい。水位が上がると外から水圧がかかり、ドアは通常時の5倍重くなる。
もし万が一窓が開かなくなってしまった場合は、サイドガラスを割って外に出ることになる。JAFの実験では、スマートフォン、車のキー、ヘッドレストなどではサイドガラスを割れず、脱出用ハンマーでは割ることができた。なおフロントガラスは合わせガラスなので、脱出用ハンマーでも脱出できる穴を簡単には作れない。車種によってはサイドガラスにも合わせガラスが使われていることもあるが、とりあえず狙うはサイドガラスだ。脱出用ハンマーが車内に無い場合は、シートベルトの先端や座席のヘッドレストをとり外して使うといい。
最悪、窓も割れず、ドアも開かない場合には、車内に水が入って外との水位差が小さくなると水圧が減り、ドアを開けやすくなる。これは最後の脱出手段としてJAFや国交省も案内している。
そして水が引いた後に、非常に重要なことがある。それは「エンジンがかかるか試してみる」は絶対に先にやらない。
国土交通省も、冠水した車について「自分でエンジンをかけない」と明確に注意喚起している。外から見ると普通でも、内部に水が入り、電気系統のショートや火災につながる可能性があるからだ。
特にエンジン内部まで水を吸い込んでいる場合、再始動させることで重大なエンジン損傷につながる可能性がある。
まずやるべきことは、
①写真・動画で浸水位置を記録する
②保険会社へ連絡する
③JAFやロードサービス、販売店・整備工場に相談する
④自走せず搬送してもらう
ことだ。
愛車を救いたくて何かしたくなる場面だが、冠水直後は「何もしないこと」が車を守る行動になると覚えておきたい。
冠水車は車両保険で補償される?
大雨や洪水による冠水は、基本的に車両保険の対象になる。ただし洪水・台風・高潮による水没は一般的な車両保険の補償対象だが、地震・噴火・それらによる津波は原則対象外。
対人・対物保険だけで車両保険を付けていない場合、当然自腹になる。
そして実際に車両保険を使う場合の等級の扱いだが
洪水による車両保険事故は一般的に1等級ダウン事故。翌年1等級下がり、事故有係数も1年間適用される。
数万円程度の修理なら保険を使わず自己負担した方が長期的には安くなることもあるが、全損なら迷わず使っていい。
ちなみに全損かどうかの基準はエンジンがかかるかどうかが目安になる。
そもそも車両保険って必要?
FPとしてはここについて言及しておきたい。基本的には不要という考えだ。任意の自動車保険で対人対物は無制限でかけておくべきだが、車両保険に関しては修理費用は家計破綻に直結するわけではないし、仕組み上使うと等級ダウンにより翌年以降の保険料で回収される仕組みなので結構ぶが悪い保険という認識である。
ただ例外があり、水没と盗難リスクに備る目的ならかけたほうがいいと思っている。冠水する可能性の低いエリアで、事前に天気予報みながら高台に移す等の対策がとれる場合はなくてもいいが、それが難しいと思ってる人は車両保険に入っておくべきだ。
そして盗難リスクの高い車を乗っている人も、車両保険に入っていた方がいい。具体的にはアルファード、ベルファイア、ランクル、レクサスLXあたり。盗難対策はどれだけしても実際にプロの窃盗団に狙われたやられる。窃盗団は盗難車をヤードに運び解体し海外へ持っていき売るので、海外でも大人気のTOYOTA車が圧倒的に狙われる。さすが世界のTOYOTAである。
ちなみに盗難も車両保険では全損扱いで1等級ダウンで水没と同じ扱いである。
冠水した車は、その後どこへ行くのか
冠水したらすべて廃車になるわけではない。浸水が軽ければ修理される場合もある。しかし室内フロア以上まで浸水していると話は変わる。
日本自動車査定協会の中古自動車査定基準では、集中豪雨や洪水などによって室内フロア以上に浸水したもの、またはその痕跡によって商品価値の下落が見込まれるものが冠水車とされている。
冠水車が厄介なのは、「今直った」=「将来も大丈夫」とは言い切れないことだ。
水や泥はシートの下、配線、コネクター、ECU周辺など至るところに入り込む。数カ月後、数年後に腐食や接触不良が出る可能性がある。
そのため状態が悪ければ廃車となり、解体後に使える部品だけ再利用される。日本の中古部品は海外にも大量に輸出されており、エンジン、トランスミッション、外装パネルなどが再利用される流通経路もある。
一方で、冠水車を専門に買い取る業者も存在する。
つまり、冠水 → 廃車だけではなく、冠水 → 買取 → オークション・輸出・部品取り・解体
など複数のルートがある。なのでもし愛車が冠水してしまったら売却を見込めるというのは覚えておきたい。
そして売却できる可能性があるということは、それを買取、再販する業者がいるということだ。そうなるとこれから中古車を買おうとする人は、水没した車を知らずにつかまされるのではないかという不安がある
今後冠水車は中古車市場に大量に出回るのか
これだけニュースになってるのだから、水没して愛車を手放す人が続出するというのは容易に想像がつく。となると、中古車市場に水没した車が大量に出回るのでは?と思う
ただ、ここは少し冷静に考えたい。
大規模水害が起きたからといって、その数カ月後に冠水車が何万台も「普通の中古車」として店頭に並ぶわけではない。
自動車公正取引協議会は冠水車について、そもそも商品中古車として販売するには適さないとの考え方を示している。
さらに現在の自動車公正競争規約では、冠水車であるにもかかわらず、それを表示しないなどして冠水車ではないように誤認させる表示は禁止されている。
つまりまともな販売店が「冠水歴を知りながら普通の中古車として黙って販売する」ことは許されない。
実際に冠水車を買い取る業者を調べてみると、その多くは自社で乗るために買い取るか海外向けに売ることがほとんど、国内ユーザー向けに再販することはほとんどないというのが多数だ
ただし、リスクがゼロになるわけでもない。
中古車は、買取店→業者オークション→販売会社→消費者と複数の業者を渡ることがある。
どこかで冠水歴が把握されなかったり、過去の所有者が申告していなかったりすれば、販売店自身も把握しないまま仕入れる可能性はある。
実際、自動車公正取引協議会は過去に、オートオークションでは冠水車と判断されていた5台を、その旨を表示せず中古車サイトへ掲載した業者に警告措置を行っている。
したがって、「大手中古車サイトに載っているから絶対大丈夫」とまでは言えない。
そして被災地の車が被災地で売られるとも限らない。オークションを介せば全国どこへでも流通する。「千葉で水害があったから関東以外で買えば安心」という考え方も成立しない。
冠水車を見分けるポイント。「修復歴なし」を信用しすぎない
中古車選びで最大の落とし穴が「修復歴なし=事故も水害もない車」と思ってしまうことだ。
修復歴とは、基本的には車体の骨格部分を修正・交換した履歴を指す。冠水歴とは別物だ。したがって冠水車でも「修復歴なし」はあり得る。
まず販売店に、「この車に冠水歴・水没歴はありませんか?」と直接聞く。
できれば口頭ではなく、メールや注文書など記録が残る形にする。
現車を見る場合には、目につくシートやダッシュボードよりも、むしろ普段掃除しない場所を見る。
代表的なのは、シートレールや固定ボルト、シート下の配線・コネクター、カーペットの裏、スペアタイヤ収納部、トランク床下、シートベルトを最後まで引き出した奥側などだ。
水没した場合、不自然なサビ、泥や細かな砂、通常では付かない水染み、カビ臭などが必ずある。
JPUCも冠水車に現れやすい特徴として、通常では発生しない場所のサビ・腐食、通常では付着しない汚れやシミ、泥やカビの臭いを挙げている。
逆に「ものすごく芳香剤が強い」「年式の割にカーペットだけ妙に新品」といった状態も、一応理由を確認したい。
ただし、ここが重要だ。素人の目視だけで100%見抜くのは無理。
徹底的に洗浄されていれば泥や臭いは消せる。だから高額な中古車ほど、可能ならオークション出品票や第三者の車両状態評価書を確認し、できれば購入前に第三者の整備士や査定機関に見てもらう方が確実だ。
もし買った車が冠水車だったら?
では買った中古車が、半年後の車検で、「これ、昔水に浸かってません?」と言われたらどうするか。
販売店が冠水車であることを知りながら隠して販売していたのであれば、大きな問題になる。
現在の自動車公正競争規約でも、冠水車なのにその事実を表示しないことなどによって、冠水車ではないように誤認させる表示は禁止されている。
また、契約内容に適合しない商品を販売された場合には、民法上の契約不適合責任として、修理、代金減額、契約解除、損害賠償などが問題になる可能性もある。品質上の不適合は、原則として不適合を知ってから1年以内に売主へ通知する必要がある。
なので隠して販売する業者はほとんどないと思われる。ただ販売店も見抜けずに知らずに販売してしまったは可能性としてある。
実務ではここからが難しい。
もし買った後に発覚し販売店に普通に行っても販売店からは
「うちが販売した時点では冠水していません。購入後に水に浸かったのでは?」
と言われる可能性がある。
購入から数年経っていればなおさら、「冠水車であること」ではなく、「購入時点ですでに冠水車だったこと」をどう証明するかが争点になり得る。
だから冠水歴が疑われたら、いきなり修理して痕跡を消してはいけない。
まず写真・動画を大量に撮り、第三者の整備工場や査定機関から「どこに、どのような冠水痕があるか」を書面でもらう。
購入時の広告ページ、注文書、販売店とのメール、LINE、車両状態評価書、オークション出品票なども保存する。
もし販売店仕入れ以前のオークション出品票に「冠水」と記載されていれば、かなり強い証拠になる。
逆に販売後に居住地域で水害が起きていると、因果関係の立証は複雑になる。
だから中古車を買う時点で、「冠水歴なし」という販売店側の説明を記録として残しておくことが重要なのである。
とはいえ実際にはやはり証明が難しいのは事実なので、冠水車を掴まないための事前対策を入念に行う方が筋がいい
まとめ
冠水する前・した後・買う前で覚えることは3つだけ
冠水する前――水に入らない。
30cmでも安全ではない。「SUVだから」「ゆっくりなら」「勢いで行けば」は全部捨てていい。
冠水してしまった後――エンジンをかけない。
水が引いて普通に見えても、キーやスタートボタンには触らず、保険会社・ロードサービス・整備工場へ。
中古車を買う前――「修復歴なし」だけを信用しない。
修復歴と冠水歴は別物。「冠水歴はありませんか?」まで聞き、可能なら記録に残す。
車の冠水対策というと「どの車なら何cm走れるか」という話になりがちだ。
でも本当に大事なのはそこではない。
愛車を守る一番確実な方法は、車の限界を知ることではなく、限界を試さないことだ。
そして中古車を買う側になったら、今度は逆に、
「見た目がきれいだから大丈夫」という車の限界を信用しないこと。
大雨の日に守るべきは命。
水が引いた後に守るべきは車。
中古車を買うときに守るべきは財布。
